埋火(うずみび)に手足を暖める良寛さん(56/100)
今日は特別に冷え込みます。
一日中机に向かって本を読んでは想いに耽っているうちに、すっかり手足が冷えてしまいました。
囲炉裏の火もとっくに燃え尽き、残り火だけになってしまいました。
冷えた手足を暖めながら、春のくるのを心待ちにしている良寛さん。

  埋火に手たづさわりかぞふれば む月もすでに暮れにけるかな

  今日よりはいくつむればか春は来ん 月日よみつつまたむ日はなし

  春になりて日数もいまだたたなくに 軒の氷のとくる音して

はじめてあひ奉りて(57/100)
かねがね良寛さんの噂を聞き知っていた貞心尼は、何とかして良寛さんに教えを乞いたいと思っていました。
意を決して木村家の木小屋に良寛さんを訪ねました。
あいにく留守で会うことができなかったので、持ってきた自作の手まりと一首の和歌をおいて立ち去りました。
貞心尼は良寛さんの返事を待ちわびていました。
そんなある日、木村家の使いの者が貞心尼の住む長岡の閻魔堂を訪ねて、良寛さんの手紙を届けていきました。
「心待ちに待っている」との快報に貞心尼は小躍りするばかりでした。
文政九年(1826)良寛六十九歳、貞心尼二十九歳の時のことです。

  君にかくあひ見ることのうれしさも まださめやらぬ夢かとぞおもふ 貞心

同じ道を歩もうとする者にとって年齢は何ら関係のないことでした。
それに答えるに

  夢の世に且つまどろみてゆめを又 かたるも夢もそれがまにまに 良寛

いざかへりなんとて(58/100)
二人の仲は歌の道を通じて深まるばかりでした。
語り合い、歌い交わしながら時のたつのをしばし忘れていました。
ふと気がつくともう日は暮れ、あたりはすっかり闇に包まれていました。

いざかへりなんとて
  立ちかへりまたもとひこむ玉鉾(たまほこ) 道のしば草たどりたどりに 貞心

  又もこよ山のいほりをいとはずば 薄(ススキ)尾花の露をわけわけ 良寛

良寛・貞心座像(模写)(59/100)
新潟県三島郡和島村、「良寛の里」に等身大の二人の座像があります。
真摯に向き合う両人の姿に誰もが心を澄まされます。

いとねごろなる道の物がたりに夜もふけぬれば
  白たへのころもでさむし秋の夜の 月なか空にすみわたるかも 良寛

されどなほあかぬここちして
  向かひいて千代も八千代も見てしがな 空行く月のこと問はずとも 貞心

御かへし
  心さへかはらざりせばはふたつの たえず向はん千代も八千代も 良寛

良寛さんと交わしあった時の歌が貞心の最高のもので、それ以外の歌はそれほどでもないとの説もあります。

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