文化財としての価値

 学塾三餘堂関係資料の文化財としての価値は、およそ以下の四点に認められる。
 第一に、本資料は、越後の学塾資料としては、年代的に早い時期に属している。南城の父北溟の朝陽館は越後折衷学の草分けといわれ、その北溟の著書や蔵書は、十八世紀末のものである。またその子南城の注釈書等は、主に十九世紀前半に記されている。これに対して、県指定文化財「長善館学塾資料」は、明治期(十九世紀後半)のものが中心である。本資料の大きな長所は、これに先立つ近世末期以来の越後学塾を知ることができる点にある。
 第二に、本資料は、近世越後学塾の学風の特徴をよく示している。越後の郷村社会では、官学(朱子学)に対峙して、折衷学が盛んであったことが知られているが(伊東多三郎『近世史の研究』第三冊)、本資料(著述および蔵書)は三餘堂で講じられた、越後折衷学の実態をよく物語っている。本資料と「長善館学塾資料」を考え併せることで、官学とは別の学統にあった越後学塾の学風を明らかにすることができる。
 第三に、本資料(一連の門人録)は、近世末期から明治期に及ぶ、民間の農村子弟の教育の実態をよく示している。三餘堂の門人は豪農・豪商、寺院の子弟等が中心であった。中には長じて政治や学問の分野で活躍した者もいた。しかし、その多くは、三餘堂での学問を終えると、帰郷して村役人や村童の教育者となり、南城の学風を村々に着実に浸透させる役割を担った。本資料はこうした在郷の学問事情を解き明かす重要な拠り所となる。
 第四に、本資料(蔵書および版木)は、近世越後に広がった出版文化の実態をよく示している。三餘堂のあった南条の地は、出版文化の中心からは遠く離れていたが、南城は多くの刊行された書籍を蒐集し、著述・詩作に没頭し、自らも漢詩集を刊行した。ことに刊本『南城三餘集』の版木の存在は、越後出版文化の水準を知る資料として貴重である。


文化財指定資料の一部
〈註1〉県立・柏崎市立図書館蔵以外の学塾三餘堂関係資料
1.藍澤誠治家
・肖像画(南城、朴斎、朴斎妻佐知、雲岫、雲岫妻米) 5点
・蔵書印・落款(「藍澤義塾」、「南城」、「優游」等) 50顆  
・藍澤雲岫「袖中日記帳」 1冊

2.国立国会図書館(古典籍資料室顎軒文庫)
『南城先生詩集』写本4冊、『南城先生詩鈔』写本1冊、『南城山人三餘雑詠』写本2冊、『南城三餘草』写本1冊、『南城三餘集』写本2冊、『南城三餘草抄』版本4冊

3.前田育徳会尊経閣文庫
『讀国語』写本1冊、『詩経講義』写本1冊、『春秋講義』写本11冊、『論語私説』写本1冊、『孟子古注考〔巻上)』写本1冊、『荀子定義』写本1冊、『荀子増註釈義』写本1冊
※2・3の資料は、収められている場所は異なるが、いずれも三餘堂門人の牧江氏の写本であり、出所は同じものと考えらられる。

4.その他
・藍沢南城筆『啜茗談柄』1冊 新潟大学(佐野文庫)蔵
・藍沢南城筆『藍氏漫筆』1冊 帆刈喜久男氏蔵
・藍沢南城筆『孝経考』1冊 井上慶隆氏蔵
・『南城先生詠艸』写本1冊 内藤久正氏蔵
・『啜茗談柄』写本1冊、『南城先生詩文集』写本1冊 長善館学塾資料
(新潟県教育庁文化行政課提供)



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